過去十数年間、
色々な障害や診断名を持つ方が通う現場で向精神薬の投薬や直接支援に携わりました。
この経験が基盤となり。現在カウンセラーとして、心理療法を使ったケアを行うセラピールームを運営しています。
当時は障害や診断名だけに特化した「当てはめ支援」が推奨され過ぎる事に違和感を感じていましたので、その話をしたい所ですが、
今回はその話は脇に置いて
近年急激に飲む方が増えている向精神薬の話をしたいと思います。
はじめに知って欲しいこと
まず知って欲しいのは、心理療法はけして脇役ではないという事です。
例えば、世界保健機関(WHO)の診断、治療では、心理療法は精神疾患の第一の治療法です。
重度の場合に薬物療法との併用が可能。という位置づけになります。
日本では単に心理療法の広まりがなく、認知度が低過ぎるという背景があるだけです。
ですから、一次選択として薬物療法を選んでしまう傾向があり
最近は、睡眠導入剤を風邪薬感覚で飲んでいる方がいたり
腰痛の薬に抗うつ薬(サインバルタ)が処方されてもあまり気にしなかったり
未就学児にコンサータ(メチルフェニデートという覚醒剤)が投薬されていたします。
向精神薬は、安全だと発表されていた薬が10年後には危険だと規制がかかったりするような世界です。
これまでも様々な問題や事件が起きてきましたから、慎重に選択しなければいけません。
私は、近しい知人に怪しいと疑念を持たれたり、どれだけ生活が苦しくなっても、
カウンセリングや身体性を扱うセラピーをコツコツやってきたのは
心の問題に向き合わないまま安易に薬物療法で対処し、症状が悪化してく方を何人も見てきたからです。
支援をしていた時代から
治らないはずの障害特性や行動障害が、関わり方一つで行動変容したり鬱病の方に心身のサポートをすると数か月で元気になっていく姿を実際に見ているからです。
セラピーは関わる時間が圧倒的に長いという理由もありますが、心、身体、環境との関わりをサポートしていくので、単純に自分自身に向き合う時間を作る事で解決する事がほとんどです。
向精神薬の誤解
向精神薬は脳神経仮説に基づいた治療です。
ほとんどの方がその一部分しか情報を知らないので、局所的な還元論になり誤解を生んでしまっているように思います。
精神医学はモノミアン仮説から始まり、矛盾が生じるたびに新しい仮説を立てて治療の基盤にしていますが50年以上たった今も証明出来ていないものです。
確かに素晴らしい理論ではありますが、脳神経としての病気かどうかは未だわからない。という状況です。
私は医療の素人ですから、前提に留めておきますが、
逆に言えば、私が見てきたのは診断室や研究の中の理論ではなく、薬物療法で変化していく当事者の生活そのものです。
最も真近で見てきた十数年間は本当に貴重な体験になっています。
この体験は今のsonomamaのサポートの方針に大きく影響している事であり
カウンセリング、心理療法で根本的な心のケア、サポートをすることの重要性を実感しています。
これから話す内容は、十数年間の現場で感じた私の事実です。
あえて感情論を含めて啓蒙的に伝えたい意図もありますので、鵜呑みにはせず、一つの視点として参考にしてみて下さい。
そして、これから話す私の体験を元に
「幸せな人生とは何なのか」「健康な心身とは何なのか」ご自身で考えるきっかけになれば幸いです。
私が体験した診断名と薬の世界
当時私が関わった方はほぼ100%薬を飲んでいました。
そこでまず確信したのは薬は症状鎮静のための対処療法だという事です。
症状の一時的な消失、つまり鎮静効果はありますが
私が関わった100名ほどの方の中で、薬によって何かが治った。と言える方や
あるいは10数年の中で投薬治療が終わった方を一人として見たことがありません。
精神疾患には完治という状態が存在しません。(寛解と言う言葉になります)
原因も含めて全て「仮説」に基づいた診断、治療なので当然の事ではあります。
ただ、この辺りの定義や認知が非常にあやふやですから
極簡単に要約してみると
一次的な心の状態の悪化で起きた不穏な症状に対して
脳神経仮説によって症状を抑えると言われる薬でアプローチをしている。
ということです。
精神疾患は、ガンや骨折などの原因が明らかな一般的な病気とは違います。
「診断名」は病気ではありませんから(メンタル・ディスオーダーと言います。)
あくまで心の状態が変調している状態を指します。
そのため、診断の守備範囲が広過ぎて簡単に病気になってしまいます。(診断名は300種類以上あります)
実は私も遠い過去に「やる気がでない」と感じて心療内科を受診したことがあります。
たしか20分ほど話をして、状況の確認をされた後、その日に薬(SSRI)を処方されたのを覚えています。
私も20分で精神疾患者です。何の診断だったのかは良くわかりませんでした。
丁度「うつは心の風邪」という製薬会社のマーケティングが盛んな時期でしたから、すっかり風邪薬感覚で受け取りました。
私の場合は一方的に病気にされていくような感覚が嫌で通う事はしませんでしたが、
2週間飲んだ薬の離脱症状(全身がしびれる)が数か月続くことが衝撃的でした。
その時に初めて凄い物を飲んでいたことが怖くなりました。
今支援者時代を振り返ると不思議な光景ですが
支援者は利用者の診断名をほとんど知らないのに、なぜか投薬には命がけでした。
ある時、眠前薬を飲む前に寝てしまった方がいて
「やばい!飲ませんと!」と寝てる方の口の中へ無理やり薬を押し込んでる支援者の光景を見て衝撃を受けました。
とにかく薬は無知に乱用されていたと思います。
声が大きければ薬。走ったら薬。こだわったら薬。寝ないと薬。
これじゃ身体拘束の代替じゃないかと思いました。
当時は「落ち着くため」という何でも丸く収まる不思議なワードがとても嫌いでした。
異質な状態だったと思います。
「統合失調症」「うつ」「強迫性障害」などたくさんの診断の方がいましたが、
別に診断名はよくわかんないけれど、薬は義務の様に大量に飲ませている。
普通の病気ではありえないことです。
障害や精神疾患ってラベルがつくとこんな扱いになるのかと怖くなります。
確かに症状の共通性や根拠として「気分が落ち込む」とか「不安や緊張が強い」とか「こだわりが強い」など沢山があげられますが、
逆に言えば誰にでもある抽象的なものです。
実際に毎日関わって話を聞いたり支援をしていると、その人の不調の原因や背景はかなり個人的で具体的ですから、
現場レベルの支援で診断名や症状が直接役に立つ事は私にはありませんでした。
結局支援現場でも薬が一次選択になっていたように感じます。
本人の生活は関係ない
もう一つの驚きは
当事者の状態を知らないお医者さんが薬を増やせる事です。私のいた所が特殊だったのかもしれませんが、
家族や外部の人の話を聞いて、増えたり減ったりしていることにはかなり違和感がありました。
当時精神科医の方のセミナーに行きましたが
「医者は本人の本当の様子がわからないから言われたままに処方するしかない」とおっしゃっていました。
確かに医者も悩ましい所だと思います。
実際薬が効きすぎて日中の生活がまともに出来ない方もいたので、仕方ないでは済まない問題だと思います。
結局の所、本当の原因は置き去りにしたまま
不安が強いから抗不安薬を
寝れないから睡眠導入剤を
何か問題があったらこの頓服を
何年、何十年とどんどん薬は増え続けているのが実態でした。
薬は耐性がついて効かなくなっていきますから増えるのは容易です。
目の前で何年も見ていればよくわかります。
結局、もうこれ以上は出せない。MAXです。と言われてお手上げ状態になる方を何人も見てきました。
数えきれないほどの副作用
それでも、本人の生活が継続的に良くなっていってくれれば何の問題もありませんし
更に言えば、長期服用で効き目がないような方は、効果がなくてもいいとさえ思います。
なぜなら、実際リアルに問題になるのは副作用の方だからです。
向精神薬は副作用がとても多いです。作用と言った方がいいのかと思う量のものもあります。
薬の添付文書を調べてきっちり読む方は少ないですし
苦しんでいる方にそんな余裕はないかもしれませんが絶対に自分で目を通して欲しいものです。
例えば、
実際多くの方が飲んでいた(支援者が良く水に混ぜてこっそり飲ましてました)
中枢神経抑制剤(リスパダール)は副作用の項目を読もうとしても読み切れないほど多いです。
これを毎日何年も飲んでいいのか!?とかなり驚きました。
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00049728.pdf
カウンセラー時代はADHDという言葉を良く耳にしました。薬はストラテラ、コンサータが多かったです。
子供にも処方されているのに驚いて少し勉強しました。
コンサータの成分であるメチルフェニデートは成分としては覚醒剤です。
過去に同じ成分のリタリンで問題が増えたことで制限がかかりましたが、
コンサータは薬を工夫して、緩やかに効くようにしているとのことでした。
ただ、飲まれていたクライアントの方の中には
よく記憶を喪失していたり、感情の起伏に異常を感じる事が多かったのでやはり注意して欲しいです。
副作用の少ない薬もありますが、強い薬に移行していくのが通常なので、リスクが高くなる前に断薬出来る事が大切だと思います。
後は、一般の薬に比べて副作用の発生率がとても高い。
これも注意して欲しいです。
副作用が小さなことならいいですが、
多くの薬には
精神症状を増悪させること、自殺企図のリスク
投薬中の突然死が報告が書かれているものが多くあります。
基礎疾患の悪化。なんてのも目にして驚くかもしれません。
問題は、強い薬や既に複数飲まれていると副作用が多すぎて、今何の影響で調子が悪いのかがわからなくなります。
ですから、そうなる前に本当の原因除去に取り組むことを強くお勧めします。
中枢神経系に作用すると感情(内臓感覚)と思考(脳)が上手く繋がらないのでセラピーの効果が出ません。
何かを感じようとすると頭が真っ白になり振り出しに戻る。という状態のセラピーを何度か体験したことがあります。
意識がぼんやりしている方、思考が上手く働かない方などは、穏やかに見えますが、薬の効果で本当のその人が何なのかがはっきりわからない。
後日突然感情が高ぶった出来事など聞くと、その時に初めて、それが本当の本人の何かを訴える姿だったと気づく事が多いです。
セラピー時は、単に鎮静状態だったという事です。
本当の原因は薬の効果よりも強い
私の関わったケースに、夜間の不安が強く、夜中に活動的になってしまう方がいました。
思考が止まらず朝まで外にいることが増え、しばらく薬で対処していました。
当初は頓服を飲みながら不安を抑えていましたが、
薬の効き目が悪くなってきた時、薬の作用に抵抗するようにフラフラの状態で外に出られ始める様になりました。
財布を持たずに外に出て警察にお世話になったり、以前より感情の起伏が激しくなり結局入院生活となってしまいました。
どれだけ症状を鎮静させても、本人の心の奥にある本当の動機は悲鳴をあげ続けます。
絶対に諦めず、失った気持ちを取り戻そうと必死に顔を出してきます。
この方は何年も関わっていて、不安になる意味や背景を知っていただけに本当にいたたまれない想いでした。
かなり無力さを感じたケースです。
薬のせいではく原因を支える力不足
上記で挙げたケース以外にも、
「元気過ぎる」という理由で投薬され一人で歩けなくなった方や
常に薬が切れないように薬だけで一日を管理されている方
いつも薬が切れる事への不安で身動きが取れなくなっている方
原因のはっきりしない突然死も(原因が薬とは言い切れませんが)身近で見てきました。
障害や、正常な判断が出来ない方の状態を無視し、安易に薬で対処しようとするのは
単に支援する側の力(心理療法の選択が少ない)が不足しているからだと感じています。
私は、ケアする側が本人の身心の健康よりも、社会的リスクを避けるための支援やサポートをしているなら、それは優しい虐待だと思っています。
その当時は精神医学の歴史などを勉強し、批判的な想いでいっぱいになる事もありました。
ただ、視野を広げると、減薬して食事指導を進めたり、原因を一生懸命探ってくれるお医者さんがいる事も知りました。
ですから、医学や支援が悪いという単純なものではなく、心のケア、成長のサポートの場があまりにも少ないことが原因ではないかと思います。
私がカウンセリング、心理療法の世界に出会い身心の成長のサポートを行うことになった大きな理由です。
対処療法と根本療法
私の結論は、
薬は対処療法。カウンセリング、セラピーは根本療法。というシンプルなものです。
冒頭で書いたように、一次選択として心理療法で原因を解消し、緊急性の高い場合のみ副作用を十分に理解したうえで鎮静させる。
理解しておくべきことは両者の考え方の明確な違いです。
医学モデル、薬物療法は症状を取り除く対象として捉え、症状のみを鎮静させることです。
一方、心理セラピーは症状の原因や意味を探り、成長のきっかけとして取り組んでいくことです。
こちらは当然思い出したくない出来事、感情との直面は避けられませんが、サポートの元で事実を事実として受け入れ、心の癒し、成長が起こっていくものです。
最終的には鎮静させ症状を消す事ではなく
かつてフロイトが語ったように
今の悩みを「ありきたりな悩み」に変え、不幸に立ち向かう力をつけていく。という事が最も近いものだと思います。
実際セラピーを続けられた方は、当初の悩みが笑い話のような位置づけになります。
悩みが排除されたわけではなく、極自然な心の範囲で受け止められるようになっていきます。
私はこれが、本当の自然な状態だと思います。
心理的問題を解決せず、薬だけに頼るという事は、自身の力を裏切り、排除しようとする行為になりかねません。
鎮静の必要がある場面で薬は効果的ですが、
症状を温存し、癒し、成長を遅らせていく事だという事を忘れてはなりません。
初めて来られる方とお話をしていると、まだまだ情報不足で
健康食品やサプリ、あるいは風邪薬の様な感覚で向精神薬を検討されている方がいます。
なぜ欧米でカウンセリングやセラピーがメジャーで、日本ではマイナーな位置づけなのか、
そして未だ右肩上がりの精神医療大国なのかを是非真剣に考えるきっかけにしてみて下さい。
まだまだ少ないかもしれませんが
本当の意味で心や身体の健康をサポートされているお医者さんもいらっしゃいますし、
本気で心理療法を行いサポートをされている方もいらっしゃいます。
ただそういう方は当然簡単に見つからないものです。
ビジネスとは正反対ですから、本当に必要な方のために時間を割いていると思います。
少なくとも私は本気で向き合うとそうならざるを得ないと思っています。
堂々と断薬を推奨するお医者さんはきっと相当な覚悟がいりますから。
心のケアは未来の人生を築いていく重要な場でもあります。
治療を受ける側は症状の鎮静、安楽さを求める姿勢だけでなく
人生に寄り添い、根本的なケアをしてくれる場所を是非見つけて欲しいと思います。
そして、幸せに生きる、豊かに生きるとは何なのか、ご自身で良く考えていただけると幸いです。
さいごに
先日、中学時代の友人が亡くなったと連絡が来ました。
随分前に精神疾患の診断を受けて入退院を繰り返していたのは知っていますが、その後の様子を知らなかったので、色々な事を想像し、感じる機会になりました。
これまで関わってきた方沢山の方を思い返し、改めてセラピーの原点に帰ったような気がします。